図1 シェーカー教徒の服装

調査内容・目的

第 9 章には、シェーカーの共同体で暮らし始めたレベッカが衣服を与えられ、それに対し外部で彼女が着ていた一般的な服との違いをコメントする描写がある。衣服も全て自らの手で制作するシェーカーの文化からして、彼らが着ていた服について調べることや、一般的な衣服との違いについて調査することで、シェーカーのどのような思想のもとで衣服を作っていたのかを明らかにできるのではないかと考えた。

本文該当部分

私たちはそれぞれ、二着のドレス、二着のシャツ、二つの帽子、二つのボンネットを与えられた。 当面は、私たちは自分で持ってきた服を着なければならなかった。けれど、新しいものが作られたあとには、みんな同じような格好をすることになるはずだった。なぜならば、誰かが他の人より良いもの、高いものを持つことは許されなかったし、違った服装をしていることも許されなかったからだ。 シスター・プリシラは答えた。「いいえ。私たちの手で染められる色であれば、あなた自身で選んでいいわよ」。

女性の服装について

シェーカー教徒の女性の服装については、『The Shaker Experience in America』にこのような記述がある。

 During much of the mid-nineteenth century, the women typically wore a long one-piece dress with a full skirt, a white collar, and a kerchief pinned in a distinctive triangular pattern. A white cap and a bonnet as well as an apron were also standard. Few elements of this costume were distinctive to the Believers, for these were traditional patterns of rural dress from earlier generations. Numerous visitors commenting on this apparel remarked how it masked the female figure.( Stephen J. Stein 『The Shaker Experience In America』p.159)
19 世紀の半ば、女性は通常、丈が長く、白いワンピースを着て、独特な三角形のカチーフをつけており、白いキャップと、ボンネット、エプロンも標準的なスタイルだった。これらの服装のいくつかの要素はビリーバーズの服装にも見られた。なぜなら、ビリーバーズの初期の世代のドレスは、典型的な田舎のドレスのパターンから作られていたからである。多くの訪問者が、これらの服装がいかに女性のシルエットを覆い隠していたかについて言及した。(筆者訳)

   
図2 女性の教徒の服装

男性の服装について

シェーカー教徒の男性の服装については、女性と同じく『The Shaker Experience in America』にこのような記述がある。

Shaker brothers standardly were fitted out in a white shirt, trousers, a vest, a jacket or coat, and a hat. When working, they were likely to wear tow trousers, frock open at the throat, and a leather apron if needed.Most of this clothing was made by Believers, women sewing for themselves and male tailors for the men. After midcentury there was an increase in the purchase of ready-made clothing from the world. ( Stephen J. Stein 『The Shaker Experience In America』p.159)
男性シェーカーは通常、白いシャツ、ズボン、ベスト、ジャケットまたはコート、そして帽子を身に着けていた。働くとき、彼ははツータックのズボンをはき、フロックをのどで開き、必要であればレザーのエプロンを付けていた。 ほとんどの衣服はビリーバーズたちによって作られていた。女性たちは自分の服を縫い、男性には仕立て屋がついていた。しかし、19 世紀半ばを過ぎると、既製品を購入することが多くなっていった。(筆者訳)

        
図3 シェーカー教徒の服装

シェーカー の服の色について

(本文該当部分)
色の幅は想像以上に広かった。私たちは、どうやって染めるのか、明るく可愛らしい青色が作れるか、暗く深い赤色がつくれるか、素敵な茶色、紫色、黄色、緑色が作れるか、すべて知っていた。(中略)店で売っている絹や綿、柄物の生地はないのだった。

Although Shaker clothing was always quite simple, more colors and fabric designs were employed than might be expected of such simplisticly inclined people. At different times throughout Shaker history, the brethren deviated from the more modest colors of black, gray, and butternut to wear suits of indigo blue. The sisters often wore blue checked aprons and head kerchiefs, or blue and white striped dresses and blue petticoats. The children who lived in the Shaker colonies sometimes wore muted red clothing which had been dyed in the vats after dyeing carpet binding. Even though Shakers did allow their members some freedom in the color and fabric design of their clothing, uniformity was maintained. No member had anything not readily available to others. It is true that the Shakers feared display of human vanity however, a very pragmatic reason existed to keep the uniformity. That is, it was much simpler and less expensive to limit the manufacture of cloth to a few specific colors, designs, and fabric blends. (Gwendolyn Milbern『Shaker Clothing』p.6)
シェーカーの服はとてもシンプルだったが、人々が予想するよりも多様な色や素材が使われていた。シェーカーの歴史におけるさまざまな時期に、男性は黒、灰色、黄土色などの控えめな色から逸脱し、インディゴブルーのスーツを着ることもあった。女性たちはたびたびブルーチェックのエプロンやヘッドカチーフを身に着け、青と白のストライプ模様のドレスや、青色のペチコートを切ることもあった。シェーカーのコロニーに住む子供たちは、絨毯を染めたあと、大桶に残った色素を使って染色した赤色の服を着ることがあった。衣服に関してはある程度の色や素材の自由が許されていたが、シェーカーは服を着る上である程度の均一性を保っていた。他人がすぐに手に入れられないような衣服を所持しているメンバーはいなかった。シェーカーが、人間の持つ見栄を恐れていたのは確かだが、彼らが衣服において均一性を維持していたのには実用的な理由があった。つまり、服の製造元を制限したり、特定の色やデザインや素材を指定するよりも、より簡単に、安価で済んだのである。 (筆者訳)

       
図4 シェーカー教徒の集い

       
図5 シェーカー教徒の服装の色合い

Clothes were never to be a source of vanity, but they were made attractive by the quality of their construction and materials. Shaker recipes for dying fabrics in shades of red, brown, blue, green and purple exist, demonstrating that a broad range of colors were used. The technique of making shot cloth, cross-weaving threads in color combinations such as red and white, red and blue, blue and brown, and other color combinations produce rich, iridescent shades. (Shaker Museum より)
衣服は決して虚栄心の源になることはなかったが、シェーカーは構造と素材に工夫を凝らして魅力的な服を作り上げた。赤、茶色、青、緑、紫色に記事を染めるためのシェーカーレシピが存在し、幅広い色が使われていたことがわかる。異なる色を組み合わせて布を織る手法であるショットクロスを使い、赤と白、赤と青、青と茶色のような色を組み合わせることで、豊かな色合いを生み出した。(筆者訳)

 
図6.7 シェーカー教のスカーフ


図8 シェーカー教のボンネット

Shaker で使われていた衣服やボンネットの中には現存しているものもあり、何色かの糸から織られたネッカチーフや、ボンネットのリボンなどを確認することができる。

シェーカーの被覆手当

レベッカが述べていたように、Shaker に入信したばかりの人間には、Shaker 側からある程度の衣服が与えられていた。このような、Shaker が定めていた被覆手当については、『Shaker Clothing』にこのような記述が残されている。

As in most groups, where uniformity is a virtue, the Shakers governed the amount of clothing owned by one individual. An order of May 10, 1840 listed the following clothing allowance for “Females under 26; 2 outside gowns, 2 worsted gowns, 33 common winter gowns, 3 common summer gowns, 1 white gown, 2 cotton and worsted gowns, 2 light colored gowns, 2 cloaks, 2 winter petticoats, 3 summer petticoats, 1 white petticoat, 2 good checked aprons, 2 good winter aprons, 6 kitchen aprons, 9 shifts, 3 palm bonnets, 1 pair nice leather shoes, 1 pair wash shoes, 6 pair cloth shoes, 2 pair socks, 16 pair stockings, 10 common neck handkerchiefs, 8 white neck handkerchiefs, 16 caps, 12 collars, 3 pair undersleeves, 8 underjackets, 2 white handkerchiefs, 2 fine checked handkerchiefs and common handkerchiefs. (Gwendolyn Milbern『Shaker Clothing』p.18)
「均一性を美徳とするほとんどの集団と同様、シェーカーは一人の人間が所有する衣服の量を管理していた。1840 年 5 月 10 日のオーダーには、衣服手当について以下のように記されている。「26歳未満の女性:外出用のガウン2着、ウーステッドガウン2着、一般的な冬用のガウン33着、一般的な夏用のガウン3着、白いガウン1着、コットンとウーステッドでできたガウン 2 着、明るい色のガウン 2 着、外套 2 着、冬用のペチコート2 着、夏用のペチコート 3 着、白いペチコート 1 着、上等なチェック柄のエプロン 2 着、上等な冬用のエプロン 2 着、キッチン用のエプロン 6 着、肌着 9 着、手袋 3 着、上等な革靴 1 足、掃除用の靴1足、布製の靴 6 足、靴下 2 足、ストッキング 16 着、一般的な首元用のハンカチ 10 枚、白い首元用のハンカチ 8 枚、帽子 16 着、襟 12 着、内袖 3 着、アンダージャケット 8 着、白いハンカチ 2 枚、チェック柄のハンカチと一般的なハンカチ 2 枚」(筆写訳)

これらの記述から、シェーカーは信者に対して、入信する際に、充実した被覆手当を施していたことがわかる。レベッカは手作りの服ができるまで、当分の間の衣服の身を与えられていたが、このように通年を通してかなりの量の衣服が施されることもあった。

 

 

まとめ・考察

これらの調査から、シェーカーの服は、当時の一般的な服装とそこまで変わらない部分もあるが、生活において着用する衣服のほとんどを自ら作っていたため、一般的に出回っているような既製品とはやや異なったデザインのものも多く存在していたことがわかる。シンプルかつ素朴なデザインのドレスや、シェーカーの共同体で暮らす人々自身によって織られたハンカチなどからは、見栄から来る虚栄心を恐れながらも、ある程度ファッションを楽しもうという気持ちが感じられるのではないか。しかし、他者と異なるもの、あるいは高価なものを所持することが虚栄心の源になるという思考によるものか、際立って変わったデザインの服などは見られないことにも、シェーカーの思想を伺うことができる。『The Shaker Experience in America』にもあったように、19 世紀後半のシェーカー達は、経済面や利便性の面から、市場に出回っている既製品を購入して着用することが増えた。そのような背景から、シェーカーの衣服への規制は緩和し、消失していったのではないかと考えられる。

執筆:高塚

参考文献・図版出典

Cheryl Bauer『The Shakers of Union Village』(Arcadia Publishing, OH, 2007)
Stephen Paterwic『Historical Dictioonary of the Shakers』 (Rowman & Littlefield Publishers, 2017)
Stephen J. Stein 『The Shaker Experience In America』(Yale University Pres, 1992)
Stephan J. Paterwic『THE A to Z of the SHAKER』(Scarecrow Press; 106th edition 2009)
Shaker Museum (https://www.shakermuseum.us/collection/shaker-dress-plain-comfortable-economical-comely/practicality/)
Harvard Shaker Village (http://www.harvardshakers.com/the-whipping-stone.html)
Gwendolyn Milbern『Shaker Clothing』(The Warren County Historical Society,1960)

図1,2,6,7,8 ShakerMuseum(https://www.shakermuseum.us/collection/shaker-dress-plain-comfortable-economical-comely/beauty/)より
図3,4 Shakers の Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Shakers)から
図5 History Net(https://www.historynet.com/shakers-many-gifts.htm)より
いずれも最終閲覧2021/06/08