当時のアメリカについて

シェーカー教がアメリカに渡った18世紀末当時、アメリカ各地にはイングランド、フランス、スペインからの移民が都市を形成していました。1774年にイギリスはマンチェスターを出発し、当時のイングランド領である東海岸地域、ニューヨーク州に辿りついたシェーカー教は、その後およそ20年の間に同地域に数多くの共同体を設けました。

また同時期、開拓者による開拓地の西方拡大(いわゆる西漸運動)に併せて、オハイオ州やケンタッキー州といった北米大陸中部地域にも都市が発展し始めました。シェーカー教は、これらの「新しい土地」にも自らの教義を広めるべく、19世紀初頭より同地域に進出しました。本小説では、18世紀末から19世紀前半のケンタッキー州での、開拓者の生活とシェーカー教の活動に焦点が当てられています。

当時のアメリカは奴隷制度が浸透していたこともあり、あらゆる社会的格差が個人の生活に付き纏い、大きく影響していた時代でした。また18世紀から19世紀には、民衆の多様で複雑な関係性を包含する社会において、「精神生活」を見直しはじめた人々が大規模な熱狂的回心を行った信仰復興運動(Great Revival)により、万人に共通の拠り所であった宗教も大きな転換期を迎えました。この信仰復興運動は日本ではよく知られていませんが、アメリカ文化を考えるにあたり現在でも有効です。シェーカー教は、この運動に直接的に関わることで、新たな教徒を獲得していったのでした。

物理的にも精神的にも大きな運動の最中にあったアメリカ社会を背景に、シェーカー教はその規模を拡大しながら、自らの信じる教義を実践したのでした。

参考:
亀井俊介、鈴木健次 監修、 荒このみ 編『史料で読むアメリカ文化史2  独立から南北戦争まで 1770年代-1850年代』(東京大学出版会、2005)
亀井俊介 編『アメリカ文化史入門』(昭和堂、2006年)