図 1:プレザントヒル共同体のミーティング外観(福居彩未撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill))

 

該当部分の概要

15 章では、レベッカがスクールの指導担当として赴任する場面が描かれている。そこでレベッカが教鞭をとるスクールハウスに関して、その空間とともに建物の色に関しても描写されていた。

The colors most often used by Shakers in the interiors are blue and white. All the classrooms were painted white, but the wainscoting and door and window frames were that beautiful, bright blue so beloved by them.

シェーカーのインテリアで最もよく使われていた色は青と白だった。全ての教室は白色に塗られていた。しかし羽目板とドアと窓枠は彼らが好んだ美しい明るい青色だった。
(15 章 133 ページ 3 段落)

調査内容

シェーカー教では、建築や家具の形状とともに、色彩も定められていた。
建物の外観や内観の色は、空間を形成するひとつの要素として、シェーカー教の意図を反映したひとつの要因であると考えられる。
本調査では、シェーカー教の建築における色彩に関して、①教義の面からの調査、②実際の建物の写真からの分析、を行い、シェーカー教の建築デザインにおける色彩の考えについて明らかにする。

①19世紀アメリカの住宅における塗装について

はじめに、小説の背景となった19世紀アメリカにおいて、住宅はどのように塗装されていたのかということをまとめる。

『Old-House Journal』内において、住宅に用いる各色の塗料に関して述べられている。

BLUE, a not-very-plentiful pigment, was prepared in several ways. Zaffre was made by grinding, washing, and roasting cobalt ore, and then adding pulverized flint. Smalt was zaffre fused into glass, cooled, and then pounded, washed, and dried; a coarse pigment, it was frequently strewn or thrown onto a paint base of white lead and clear oil, and then brushed into a uniform thickness with a feather. The popular Prussian blue, used in both oil and distemper, was made from the precipitate that resulted from combining prussic acid, copperas (ferrous sulfate), and alum. The bright blue ultramarine was prepared from the semi-precious stone lapus lazuli, which was very hard to grind into the required fine powder; its high cost kept it from widespread use in house painting. (『Old-House Journal』, p.179)

特に青色の塗料については、貴重で、あまり住宅には用いられなかったことが述べられている。
また、その他の色に関しては、茶色や赤色などの色が多く用いられていた。
これらの塗料は砂や泥の他、ミルクを原料としたものが用いられ、染料は有色の石や動物や植物を原料として用いていた。

②シェーカー教の教義における色彩の考え

〇『The Millennial Laws of 1845』で記述されている、色彩に関する教義について
シェーカー教の共同体では、ミーティングハウスやショップといった一部の建物を除いて、外部の人間が建物に入ることはない。そのため、大部分の建物の色彩は、シェーカーコミュニティ内部に向けたデザインという事ができる。つまり、意図的に着色された空間は、彼らの精神性を示す手段として用いられていたと考えられる。

3.The meeting house should be painted white without and of a bluish shade within. Houses and shops, should be as near uniform in color, as consistent; but it is advisable to have shops of a little darker shade than dwelling houses.
4.Floors in dwelling houses, if stained at all, should be of a reddish yellow, and shop floors should be of a yellowish red.
5.It is unadvisable for wooden buildings, fronting the street, to be painted red, brown, or black, but they should be of a lightish hue.
6.No buildings may be paintedwhite, save the meetinghouse.
7.Barn and back buildings, as wood house, etc., if painted at all, should be of a dark hue, either red, or brown, lead color, or something of the kind, unless they front the road, or command a sightly aspect, and then they should not be a very light color.

3.ミーティングハウスは、外観は白く、内観は青みがかった色合いにすること。ハウスとショップの色味はほとんど同じで、これらは一貫しているべきである。ただ、ショップはハウスに比べ、少し暗い色であることが望ましい。
4.ドゥエリングハウスの床は、汚れがある場合は赤味がかった黄色、ショップの床は黄味がかった赤にすること。
5.通りに面した木造の建物に赤や茶色、黒を塗ることは勧められない。しかし、それらは明るい色でなければならない。
6.ミーティングハウス以外の建物は白く塗装してはならない。
7.木造の納屋(Barn)や納屋の裏の建物などは、ペンキを塗ったとしても、道路に面していない限り、赤か茶色か、鉛の色か、あるいはその種のものでなければならない。そうでなければ、明るい色であってはならない。
(『The Millennial Laws of 1845』の第9節3〜7条)

これらは、1845年に刊行されたThe Millennial Laws中に定められた、建物の色に関する記述である。
『SHAKER LIFE, ART, AND ARCHITECTURE』においては、シェーカー教は、各色に関して、それぞれがシェーカー教にとってどのような意味を持つかなど、具体的には言及しなかったと言われているが、The Millennial Lawsに書かれている記述によれば、
ミーティングハウスなど、共同体の中で重要な役目を持つ建物は白や青を基調とした明るい色、その他の建物は赤や黄色を必要に応じて塗り、納屋などの作業場は人が通る道に面した部分のみ暗い色で塗っていたことが分かる。
つまり、白や青が信仰上重要な場所に用いられることが多く、暗い色合いは作業場などの重要度の低い空間に用いられていたことが考えられる。

After the 1820s the Shakers began to record their system of color coding in the Millennial Laws. Although these writings described the color system, they did not explain the meaning of the colors assigned to specific areas or classes of objects.
“SHAKER LIFE, ART, AND ARCHITECTURE -Hands to Work, Hearts to Gods”, p.49

     図 2:プレザントヒル共同体のミーティングハウス内観(福居彩未撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill))

②シェーカー教の建築の時代による色彩の変遷

シェーカー教の共同体の建築を、年代ごとに比較すると、それらの色は同じ用途の建物であっても異なっていることが分かる。
それらの違いをカンタベリーの共同体を例にとり、年代ごとの変化を比較する。
『SHAKER LIFE, ART, AND ARCHITECTURE』では、カンタベリーの共同体においては、建物の色はその年代ごとの特徴によって、4つの期間に分類されると指摘されている。

第1期 (1792-1807)
この時期は、シェーカー教がアメリカで活動をはじめた黎明期にあたる。このときは、ミーティングハウスのみが白色に塗装され、他の建物や内装はほとんどそのままのかたちで使用されていた。
この理由として、初期のシェーカー教は資金力に乏しく、また、そもそも塗料自体も希少なものとして手に入りづらかったことが考えられる。

第2期 (1807-1860)
上述した『The Millennial Laws of 1845』によって、細かく建築の色合いが定められた時期である。
1807年にカンタベリーで作られたドゥエリングハウスは、「フレンチイエロー」に塗装され、これがミーティングハウス以外の建物で塗装が施された最初の例であった。その後、ミーティングハウス以外の建物にも広く色が塗られることになったが、それらは建物の重要度によって異なる色が使われた。
建築同士の序列は、色合いの明るさによって表現され、ミーティングハウスなどの主要な建物には最も明るい色が、共同体の周縁に位置する納屋や作業小屋には最も暗い色が用いられた。これは、表現上の差異であったとともに、より純粋な色は塗料が高価であり、暗い色の塗料の方が安く手に入ったことが要因として考えられる。また、この時期には、内装にも色が塗られるようになった。ドアや窓の枠、ペグレールや造りつけの収納は暗い黄色で塗られ、床はオレンジや黄色で色が塗られた。

      図 3:プレザントヒル共同体のウォッシュハウス外観(重本大地撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill))

第3期 (1860-1925)
この期間には、the Central Ministoryによって、第2期において、暗い色で塗装されていた内装を「明るい白」に塗ることが許された。これにより、内装は白色に塗り直された。外装は2色使いになり、暗い色(灰色や緑)を基調として、窓枠などには白やクリーム色が配された。

第4期 (1925-1940)
最終的に、ミーティングハウス以外の建物に関してもほとんどが白に塗装された。
労働を行う小屋や、資材置き場などはこれには含まれなかった。

 

まとめ

ここにまとめた時代的変遷に対して、シェーカーの家具デザインにおける変遷(ここで述べるシェーカー家具のデザインの変遷は、Edward Deming Andrewsによる先行研究で指摘されている。)を重ねて、分析考察を行う。
家具デザインは大きく、黎明期、古典期、ヴィクトリア期に分かれており、

・黎明期…共同体に資金や物資が乏しく、理想のデザインとは遠いが、徐々に自分たちのデザインを模索した時期
・古典期…技術と資金がいずれも十分にあり、シェーカー教の理想としたデザインが最もよく表れた時期
・ヴィクトリア期…衰退していく共同体を維持するために販売に力を入れており、成熟した技術をもって教義とは離れたヴィクトリア調のデザインを取り入れた時期

という共同体の特徴が見られた。
ここから、色合いの時代による変遷を考えると、第2期でドゥエリングハウスやショップが黄色や赤色を外観に用いていたことは、一見奇抜であり、「簡素さ」を目指したシェーカー教のデザインの考えには反するように思えるが、年代として古典期と重なることから、これらは意図して表現されたものであったと考えることができる。
一方で第3期はヴィクトリア期とちょうど重なっており、ここでは家具デザインにおいては大きな変化が見られた。第3期では建物の外観が2色使いになったことや、内装や建具にも明るい色が用いられるようになったが、すべての建物を美しい色で着彩することが教義を超えた、デザインの変更であったのではないかと考えられる。

 

執筆:月森十色

参考文献・図版出典

参考文献

・The Millennial Laws of 1845
・Scott. T. Swank “SHAKER LIFE, ART, AND ARCHITECTURE -Hands to Work, Hearts to Gods” Abbeville Press
・Julie Nocoletta “The Architecture of the SHAKERS” A Norfleet Press, 1995
・Edward Deming Andrews “The People Called Shakers: A Search for the Perfect Society” Dover Publications, 1963
・Edward Deming Andrews “The community industries of the Shakers” Philadelphia: Porcupine Press, 1932
・藤門弘「シェーカー家具―デザインとディテール―」理工学社,1996
・“Old-House Journal Vol.14” Active Interest Media, 1986

図版出典

図1,2:福居彩未撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill)
図3:重本大地撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill)