図 1: プレザントヒル共同体のローラー付ベッド(中谷礼仁撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill))

 

該当部分の概要

小説内で1811年に起きたニューマドリッド地震の様子が描かれている場面で、大規模な地震の揺れによってレベッカたちの身の回りでも家具が倒れ、教徒たちがパニックに陥った場面が描かれた。

The beds, on their rollers, began to slide toward that end of the room and I heard a thud as someone fell to the floor.

ローラーがついたベッドiは部屋の端に向かって滑り始め、誰かが床にどすんと落ちた音が聞こえた。
(12章 104ページ 4段落)

 

調査内容

シェーカー教の発明の中でも、車輪付きのベッドの発明は広く知られているものである。シェーカー教の家具には、このように従来のデザインから移動性を高めるために改良されたデザインが多く見られる。本調査では特に、車輪付きのベッドの利用のされ方や派出に関して調査し、シェーカー教にとって移動をもたらすデザインにどのような意味があったのかということを考察する。

①車輪付きベッドについて

〇シェーカー教におけるベッドの利用
シェーカー教がアメリカに渡り活動をはじめた18世紀ごろの初期の生活では、経済力に乏しく、家具を揃えることができなかったため、ベッドも利用されず教徒たちは身を寄せ合って床で眠っていた。共同体が組織化されると小さな折りたたみ式の簡易ベッドが作られ、そののちにはベッド台にロープを張ってマットレスを支えるような形のものも作られるようになった。
ごく初期の段階では脚が直接床に立っているが、その後脚の下端に車輪が取り付けられるようになった。このような車輪付きのベッドは19世紀初め頃から作られ始めているようで、かなり初期段階から利用されていたと思われる。
(参考:藤門弘「シェーカー家具―デザインとディテール―」理工学社,1996, p.14)

〇車輪付きのベッド
車輪付きのベッドは初期のものは、従来のベッドの脚部に穴をあけて、鉄製の軸と木製のタイヤを組み合わせたローラーを差し込んだもので、車輪は一軸の方向にしか移動しないものだった。その後、車輪付きのベッドが商業化されて外部に向けて売られるようになると、より使いやすくする工夫が考えられ、車輪がどの方向にも動かせるようなキャスタータイプのものが開発された。

       図 2: プレザントヒル共同体のローラー付ベッド(中谷礼仁撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill))

このような車輪がどのような目的で付けられたかという事について明記されている資料は探すことができなかったが、同様に車輪付きの作業台など、ベッドの他にも車輪を付けた家具が用いられていたことは確認された。作業台に車輪が付くことで、女性や子どもでも容易に移動することができ、仕事をしやすい環境がつくられていた。このことから、ベッドも掃除や年配の教徒の介護などシェーカー教で行われていた日常の仕事を、女性教徒でもこなせるようにするための工夫だったのではないかと考えられる。

 

②シェーカー家具に見られる「移動性」

シェーカーチェアにおいて、ベッドの車輪と同じような「人が家具を動かすという移動性」を考えるならば、極限まで材を削ぎ落して椅子そのものを軽量化したことで、誰もが簡単に椅子を移動できて壁にかけて収納することができたという点が挙げられる。
一方で、シェーカーチェアにおいては、ロッキングチェアという形態の椅子を発明したことも特筆すべき事柄である。ロッキングチェアは従来の椅子の洗練化の流れとは異なり、座る「人を揺り動かすという動きをもたらす」装置である。

        図 3: シェーカーのロッキングチェア(福居彩未撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill))

        図4:シェーカーのロッキング付のゆりかご(福居彩未撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill))

最初期のロッキングチェアはハーバードにおいてアン・リ―が利用したとの記録も残っており、これはシェーカー教外から持ち込まれた椅子の脚に、板をはめ込み改造するかたちでつくられた。『Shaker Style』ではロッキングチェアは浮遊感のある揺れは、シェーカー教の身を震わせる動作を、椅子を座るという行動に取り入れたことが指摘されている。信仰における意味合い以外にも、このロッキングチェアの揺れは癒しを与えるとして、年配の教徒などの健康を維持するために有用とされていた。また、同じような造りの家具に、ゆりかごがあり、これもロッキングチェアと同様に中で眠る赤子に揺り動かす動作を与えている。このような考え方は、シェーカー教における「自らの健康を保ち信仰に励む」という考え方に基づいている。
その後ロッキングチェアは広くつくられるようになり、年配の教徒に限らず、すべての教徒が利用するようになった。また、ロッキングチェアはひとつの規格として販売も行われており、当時のカタログからもその様子を伺うことができる。また、ロッキングチェアのさらなる発展として、足腰の弱い教徒のためのホイールチェアもつくられていた。

        図5:シェーカー教の製作したホイールチェア(図版出典:「Mount Lebanon Shaker Museum」)

まとめ

ベッドの車輪をはじめとして、シェーカーに多く見られる移動性の追求は、家具それ自体を動かすものであった。
一方で、ロッキングチェアに見られる改良は、人に新たな動きを体験させるものとして意図されていたのではないかと考えられる。
また、これらのデザインに注目すると、ローラーやロッキングは大地との接点を究極に小さくしたものであると言える。これは、現世の生活に執着せず、人間の暮らす大地から離れようとしたシェーカー教の意識を反映したデザインであると考えられる。(シェーカー家具の浮遊性は、岡崎乾二郎による「シェーカーとテクノロジー」や、中谷礼仁による『未来のコミューン』などの先行研究のなかで、その特性が指摘されている。)

 

執筆:月森十色

参考文献・図版出典

参考文献

・藤門弘「シェーカー家具―デザインとディテール―」理工学社,1996
・岡崎乾二郎「シェーカーとテクノロジー」『10+1』15, INNAX出版, 1998
・中谷礼仁『未来のコミューン』インスクリプト, 2019
・Kovel, Ralph M. “American country furniture : 1780-1875” Crown Publishers, Inc. ,1965
・Horsham, Michael “Shaker style” Chartwell Books, 2000
・「Mount Lebanon Shaker Museum」https://www.shakermuseum.us/the-shakers-produce-a-very-early-version-of-the-wheelchair/(2021/3/16最終閲覧)
・Stephen J. Paterwic “Historical Dictionary of the Shakers” Rowman & Littlefield, 2017

図版出典

図1,2:中谷礼仁撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill)
図3,4:福居彩未撮影 (2018, Shaker Village of Pleasant Hill)
図5:・「Mount Lebanon Shaker Museum」https://www.shakermuseum.us/the-shakers-produce-a-very-early-version-of-the-wheelchair/(2021/3/16最終閲覧)