ビリーバーズと出会う前の日々のあらゆる出来事を思い返すことは、もはや無意味である。私たちは熱心に働き、リチャードは、農場がしっかりした価値のあるものになるまで絶えず働いていた、というだけで十分だろう。リチャードは純血の馬を愛し、インディアナ州のほうで売ったり交換したりするために、良い品種が得られるまで育て上げた。すべての家畜に愛情を持って世話をしたので、私たちは立派な牛の群れと羊の群れを所有していた。つまり、私たちはうまくやっていたのだ。「信じる者は、百倍を賜る」それがリチャードの口癖だった。それは本当のことであるように思えた。

 そのうちリチャードは、トーマス・ベネットやブラザー・ランキン、サンプソン、他の開拓地の男性たちと協力して、グリーン・リバーの家より大きく、丈夫で上質な家を建てた。
本当のところ、私たちは厳密にはグリーン・リバーを離れてはいなかった。グリーン川は私たちの土地の北側を、広く堂々とした川となって流れていた。グリーン川の支流であるギャスパー川、マディ川、レッド川を主に利用していたとはいえ、私たちはまだグリーン・リバー郡にいた。

 グリーン・リバーが近くを流れている、そのことが私は好きだった。初めの頃、その川は私を家に帰ったような気分にさせてくれた。グリーン・リバーに至る川のほとりまで足を延ばしたとき、そのエメラルド色の水を見下ろし、それが以前の家の近くを流れていたことを思い出し、大地に優しく祝福された故郷に触れているかのように感じた。ひざまずき手を水の中に入れると、故郷の地面に触れているかのように感じられた。

 とはいえ、私はいつもホームシックであったわけではない。たしかに初めの頃は、父と母に会いたかった。それはもちろん自然なことではあったけれど、結婚はいつも親離れを必要とするものだ。すべての若いものは、鳥も動物も子どもも、常に前に進んでいき、古い家を離れるものだ。時間が経つにつれて喪失感を感じることはなくなっていった。

 そして、ついに私はギャスパー・リバーに来た。自分の意志で、熱意を持って。そしてこの場所で、私は心の平安を得ることができた。それにパルミラがいた。一マイルしか離れていない場所に住み、私たちは姉や母や父、リチャードを除いた自分の家族と同じくらい親密になった。私たちが一緒にいない日は珍しく、いつも仕事や楽しみを一緒にしていた。パルミラは友人以上の存在だった。初めからそうだった。私が必要とした時、愛と思いやりと笑いをもって助けてくれた。いつも誠実で、いつも献身的だった。そして私も、パルミラにとって同じような存在だったように思う。

 あの六年のあいだに、パルミラは二人の太った健康な子を産み、その子たちは私にとっても自分の子どものようだった。私自身は妊娠しなかった。子どもに恵まれないことは、私とリチャードを深く悲しませた。しかし、ブラザー・ランキンは、私たちに「神はきっと別の計画をお持ちなんだ」と言ってくれた。「主は素晴らしい使命を与える準備をしていらっしゃるはずだ。今子どもを与えるべきでないとされたのは主の意志で、そのご意志はまだわからないけれど、そのうち明らかになるはずだ」

 それを私たちは受け入れ、信じた。そして、悩みを押しのけて、悲しみを忘れた。私は絶望を感じるのをやめた。深く揺るがぬ信仰心を持ち、神の御旨が私たちの中ではたらいている、そう信じていたので、罪や罰を感じることはなかった。そして、私は決して希望を捨てなかった。

 前にも言ったように、私が完全な黙示を与えられることはなかった。それでも私は、集会では自分が真実の道を辿っていることに喜びを感じた。賜物を与えられなかった人は、パルミラも含め他にもいた。私たちは話し合った結果、忘我を与えられる者と鎮静(the quiet presence)を与えられる者がいて、自分たちは後者なのだと納得することにしたのだ。私たちは疑問を持つことも、悩むこともせず、示されたこと以上を求めようともしなかった。パルミラは言った。「叫んだり、転がったり、踊ったりする必要なんてまったく感じないわ。やろうとしたって、知らない言葉をしゃべるなんて無理よ」

 私もまた、その必要を感じなかった。ブラザー・ランキンがそのことで私たちを咎めることもなかった。ブラザー・ランキンその人が、歌や運動と同じように、静寂を通じても主ははたらきかけてくることを教えてくれたのだ。

 私は父と母にできるかぎり頻繁に手紙を送り、毎年何通か返事がきた。私はジェイニーの手紙が恋しかったものだ。今思えばジェイニーが私たちに手紙を送るのは難しかった。しかし、母は自分宛に手紙をたくさん送ってくれた。

 ジェイニーが私たちに共感してくれることはまったくなかった。私たちの移住について信じられないようで、やがて苛立つようになっていた。ジェイニーに理解できるはずはないのだ。「あの子たちはおかしくなったの?」ジェイニーは手紙の中で母に訊いていた。彼女は別の手紙の中ではこんなことも言っていた。「私はリチャードのせいだと思う。ずっと頑固で強情な人で、レベッカはあいつの決断に疑問を持たなすぎなのよ。頭の良い人はみんな、国中で起きてる信仰復興運動の流れは、無学で馬鹿な人たちが、感情的になってるだけって言ってるわ」

 おそらく……リチャードは感情に動かされていた。もちろんそうだ。真の宗教に感情が欠けていることなどあるだろうか?

 ギャスパー・リバーに住み始めて三年ばかりの頃、急になんの知らせもなくジェイニーとレヴィット氏が私たちを訪ねて来たことは忘れられない。新しい家の基礎こそあったけれど、私たちはまだ小さな小屋に詰め込まれていたので、二人は夜が来る前に帰っていった。ジェイニーは肩のまわりに毛皮のついた暗い色のシルクのガウンを着て、可愛らしい赤毛の上に魅力的な帽子をのせ、繊細な上靴を履いていて、すごく場違いに見えた。洗濯中に訪ねてきたものだから、私の服は汚れ、髪はほつれていた。ジェイニーの隣で、ひどくだらしなく感じていた。

 レヴィット氏は(1)ボウリング・グリーンに仕事があり、それについてきて、ジェイニーは私がどうしているかをついでに見にきたのだ。こういう状況ではあるけれど、私たちはうまくやっているということを、ジェイニーに理解してもらおうと努めた。家を建てるのは、土地と家畜の改善がひと段落するのを待たなければいけない。ジェイニーはまわりを見渡して、肩をすくめ、自分のきれいな服をたぐり寄せた。
「どうしたら我慢できるのかわからないわ」ジェイニーは言った。
「ずっとこの状況ってわけじゃないの。
リチャードは新しい家を建て始めたし、土地だって順調にいってる」
「私だったらこんな状況で一日だって耐えられない」
「あなたにはわからない幸せなのよ、ジェイニー」
「こんな幸せなんて、わかりたくもない」

 私はジェイニーの生活のほうに話題を変えると、彼女は陽気になって、自分の生活がどんなに楽しいか話してくれた。レヴィット氏が議会に立候補し、選ばれたこと。
そして近々、二人はワシントンに引っ越すこと。ジェイニー自身、それをとても楽しみにしているということ。
「レヴィット氏は一番良いホテルをとってくれたの」ジェイニーは言った。
「レヴィット氏が仕事をしているあいだ、あなたは何をするの?」

 ジェイニーは幸せそうに笑って、頭をのけぞらせた。帽子の飾り羽が揺れた。
「普段通りよ。お茶会にパーティーに舞踏会。どんなに時間があっても持てあますことはないの」

 ジェイニーはワシントンとその上流社会、レヴィット氏の重要さや著名人との交友関係を話し続けた。いい話だと思った。ジェイニーは家に来る前にパパとママに会っていて、様子を教えてくれた。
「何も変わってない。まったく何も変わってないわ。変わることなんてないわよ」
「歳をとることを除けばね」私は言った。
「もちろんそうね。でもママはまだしっかりしてるし仕事もちゃんとしてる。パパは少し弱ったみたいで、男の子たちが大半の仕事をやってる。でも健康ではあるらしいけど」
「二人に会いたい」私は切なくなって言った。
「会いにいけばいいじゃない。リチャードに連れてってもらいなさいよ」
「いつかね。いつか行くつもりよ」

 どうしてか、私は家に他人を招いたかのような感覚になっていた。このおしゃれな若い女性は、リチャードと私が結婚するまで、共に成長し、毎晩一緒に眠っていた姉には見えなかった。掛け布団を取り合ったこと、暖をとるため互いに身を寄せ合ったこと、霧深い早朝に搾乳の仕事を分担したこと、イギリス人のフォスターさんの話を一緒に聞いて勉強したことのどれもが嘘のようだった。フォスターさんに続いて「Gallia est omnis divisa in partes tres(ガッリアは全体として三つの部分に分かれている)」と粛々と暗唱し、ラテン語のテキストを投げ捨てて、「ああ、(2)ガリアがどう分けられたかなんかに誰が興味を持つの! 私が興味のあるラテン語は’Amo, amas, amat(「愛する」の活用変化)だけなのに!」と叫ぶジェイニーの声を思い出すのは簡単だった。フォスターさんはショックを受けていた。「ジェーン」フォスターさんはいかめしく言った。「ラテン語はすべての文明的言語の根幹なんだ。教養のある人間には必要な素養だよ」
「こんなのローマにとまっていれば……よかったのに」ジェイニーは不機嫌そうにつぶやいた。
「とどまっていれば……」フォスターさんは機械的に訂正した。
「はいはい。そうですね」と言いながらも、ジェイニーはテキストを拾い上げ、再び勉強を始めた。どんなにいらいらしていても、ジェイニーは教育を受けることを望んでいた。

 今のジェイニーを見ても、生まれを想像することなんて不可能だろう。昔からシルクを着て、街の流行や著名人に精通していたように見えた。フォスターさんは、思っていた以上に教え上手だったのだろう。

 レヴィット氏がジェイニーを呼び、二人がいよいよ帰るとなった時、私のよく知っている姉の面影がやっとよみがえってきていた。
「知ってた?」ジェイニーは言った。「ジョニー・クーパーが街にいるの。ルイヴィルに荷物を運ぶ仕事をしてるんだって。うまくやってるらしいわ」

 私は知らなかった。
「嬉しいわ。ジョニーに会うことはあるの?」
「なぜ私がジョニーに会うのよ?」ジェイニーは笑いながら言った。
「上院議員の妻が輸送人に会うわけ?」そして、ジェイニーは私の腕を引き寄せた。
「ベッキー、もし必要があったり、何かトラブルがあったら、私の家はあなたのものでもあるって忘れないでね」

 今度は私が笑いだす番だった。ジェイニーの愛情に温められた。
「私にはリチャードがいるわ」私は言った。
「もちろん、そうね」ジェイニーはスカートをたぐり寄せ、ぬかるんで湿っぽい前庭の地面に触れないようにしながら、出ていった。

 たしかに私のそばには、今まで以上に幸せで、愉快で、喜びに満ちているリチャードがいた。リチャードは最も信頼していたブラザー・ランキンの近くにいることができた。
そのことをリチャードは天恵と思い、私たちがこの集団に所属できたことに感謝してやまないようだった。それは、すべての仕事を喜びに変え、私たちの生活の基盤となった。リチャードはよく笑い、よく祈った。自分の信念に忠実で、知識はリチャードに日々生きる熱意を与えた。

 私たちのまわりには、ブラザー・ランキンについてきた人たちが住んでいて、一つの大きな家族のようだった。無法の地の真ん中で、私たちの世界は平和で、誰にも邪魔されることはなかった。ブラザー・ランキンと知り合ううちに、私はリチャードと同じくらい彼のことを愛するようになった。ブラザー・ランキンは、この後に出てくることになるブラザー・ベンジャミンを含めても、私が知っていた中で最も聖人に近い人だった。ブラザー・ランキンに策略や罪は決してなかった。住民はみな、ブラザー・ランキンを尊敬し、彼のことが大好きだった。優しく話すだけで、私たちにどんな罪も恥じさせることができた。その存在のおかげで、私たちはずっと円満でいることができた。こんな指導者のもとで、非行に走る人がいるだろうか? ビリーバーズがやってこなかったら、その後はどうなっていたのだろう、と想像することがよくあった。

 しかし、彼らは来た。それは 一八〇七年の十月のことだった。その日のことをよく覚えている。その日、十月十七日は、とてもきれいな秋の日で、太陽は暖かく輝き、空気はきれいで新鮮だった。私はパルミラとカッシーと洗濯をしていた。その夏は干ばつのために水が少なくなってので、パルミラは自分の洗濯物を私たちのところに持ってくるようになっていた。

 ジェンシーはパルミラの子どもたちの面倒を見ていた。ジェンシーは成長していた。でも、まだ気まぐれで、常にくすくす笑い、今まで以上にうたい、夢を見るような目で鳥や花や蝶を追いかけていた。子どものことが好きなのは間違いなく、扱いも手馴れていた。

 私たちの家の裏手は少し土地が盛り上がっていて、ずんぐりとした濃いスギの木の林で、下の地面は乾燥して落ちた針が敷かれていた。林の中には、最初の入植者が建てた古く傾いた小さな小屋があった。ジェンシーはスギ林とその小さな小屋を愛していた。「ほら穴みたい。隠れられるのよ」とよく言っていた。

 ジェンシーはよく、パルミラの小さな子どもたちをそこに連れていき、まるで自分の子どもかのように、ままごとをしていた。ジェンシーが、掃除をしてブラシをかけて、壊れたやかんやお皿をその小屋に置いているのを見て、私はクッキーと、肉の挟まったビスケットをままごとの夕食のために渡してあげた。この日も、ジェンシーはパルミラの子どもをそこに連れていっていて、子どもたちのことは完全に彼女に任せていた。

 洗濯場は小川にあり、カッシーは白い服を洗っていた。パルミラと私はそれらを家のほうに運んで干し、服の真っ白さや明るくて暖かい日、楽しい集まりに喜びを感じていた。突然、パルミラが目の上に手をかざした。「お客さんが来たみたい、ベッキー。男の人が三人こっちに向かってくる」

 私は振り返った。知らない人たちだったので、私は髪を整え、湿ったエプロンを外すとパルミラに言った。「何の用か聞いてくる」
「あたしはこのまま服を干してるわね」パルミラはうなずきながら言った。

 私はポーチで三人を迎えた。彼らはアイザッカー・ベイツ、リチャード・マクネマー、(3)マシュー・ヒューストン。初めての出会いだった。三人とも、旅の汚れこそあってもきちんとした服を着て、いい身なりをしていた。彼らは、我が家をブラザー・ランキンの家と勘違いしているらしかった。私が道を教え、水をあげたあと、三人は小道を戻っていった。「何の用だったの?」パルミラが尋ねた。
「ブラザー・ランキンを探していたの。
何の用かは訊かなかったし、教えてくれなかったの」

 私は、そのことをリチャードが家に帰ってくるまで忘れていた。「三人の宣教師がブラザー・ランキンを訪ねてきた」リチャードは言った。

 宣教師たちはいつもブラザー・ランキンのところでは歓迎されていたので、私は特に変だとは思わなかった。しかしリチャードは続けた。「オハイオの(4)ユニオン・ビレッジから来たんだよ」

 私は少し動揺した。ユニオン・ビレッジのことや、そこに暮らしているビリーバーズ連合(The United Society of Believers)のことを聞いたことがあった。その人たちはシェーカーと呼ばれていた。ケンタッキー州のショーニー・ランを足場に固め始めたことも聞いていた。「ここで集会を開こうとしているの?」私は尋ねた。
「宣教師たちはそうしたがっていたよ。でもブラザー・ランキンは僕たちのミーティングハウスを貸してあげるのは無理だと言っていた」
「気持ちはわかる。みんなビリーバーズなんか必要としてないもの。その人たちは怒ってた?」
「そんなことないよ。激しく議論したがるような人たちじゃないんだ」

 その時はそれで終わった。しかし翌日に、ジョン・スロスが自身の家を集会場として提供したことを知ったのだった。「行くつもり?」私はリチャードに訊いた。

 リチャードはうなずいた。「ブラザー・ランキンも行く。僕たちも行こう」

 その晩、リチャード・マクネマーが語ったのは、とても不思議な説教だった。これまでの私の人生の中で、彼ほど力強い説教をする人は見出せなかった。彼は礼儀正しい人で、かつ教養があり、さらに大衆への話し方を知っていた。彼には人を惹きつける何かがあって、彼の言葉は一言も聞きもらしたくないと思いながら、じっと聞き入ってしまうのだった。

 リチャード・マクネマーは、ビリーバーズについて、そして創始者のマザー・アンについて教えてくれた。まだ、マザー・アンがイギリスに住んでいるただの若い女性だった頃に(5)聖霊の火に満たされたことや、そこで受けた迫害、それをまるで神の愛に守られているかのように切り抜けたことを話してくれた。そして、投獄された時に、彼女を新しい信仰の道へと導くこととなる黙示と天啓が訪れた様子を教えてくれた。

 牢獄の外へ出た時、彼女の顔は天の恵みにより輝いていて、友人たちは何の疑問も持たずに彼女についていったということだった。キリストが彼女に顕現し、二度目の到来が彼女を通じてなされたのだ、と友人たちは信じ、その日から彼女はマザーと呼ばれるようになった。

 マザー・アンは、彼女の黙示の中で、福音を待つ新たな地を見、新たな人々と出会った。彼女は、この新たな地がアメリカであると確信し、共に海を渡る信者を集めることに休みなく尽力した。

 ニューヨーク州の(6)ウォーターヴリートにある移住地のこと、そこでの伝道集会のこと、マザー・アンと弟のウィリアムが国を旅しながら伝道し、人々を誤った道から引き戻した教えのことを、リチャード・マクネマーは語った。そしてマザー・アンがハーバードを訪れた時に、黙示で見た顔ぶれに出会い、正しく導かれていることを確信したことを教えてくれた。

 マサチューセッツで受けた迫害のことや、あちこち追いやられたこと、そしてまたもや投獄されたこと、それにもかかわらずマザー・アンの信念や努力は決して変わらなかったこと、(7)ニューレバノンやハーバード、ウォーターヴリートに集まった信者たちのことを教えてくれた。

 マザー・アンの奇跡についても教えてくれた。病人を治したこと、渡米する際にひどい嵐に見舞われた時、帆に立つ天使を目撃したこと、そして船は沈没しないと確信し、船長や乗員を落ち着かせたこと。マザー・アンが天使を見るやいなや、船への浸水がおさまったらしい。

 そして、後にマザー・アンは「西の偉大なる集結の地」で素晴らしい業をなすという黙示を授かったことを教えてくれた。

 リチャード・マクネマーは言った。「そんなことは不可能だと長いあいだ思われていた。マザー・アンも亡くなった。選ばれた地上の司教たちも使命を果たし、死んでいった。しかし、この地でのリバイバルが道を示したのだ」

 マクネマー自身も西部の出身で、ビリーバーズの宣教師が訪れるまでは、オハイオ州で長老派の牧師だったそうだ。マクネマーは続けた。「ビリーバーズに真実があったことは明らかだった。そして私は信仰告白し、信徒たちと共に全員入信したんだ」

 それは数年前のことで、その結果ユニオン・ビレッジが生まれた。そして、福音をもって、彼らはギャスパー・リバーへと来たという。「リバイバル運動が、ここギャスパー・リバーで起こったことは、周知の事実だ。泉の源に私たちは来たのです」とリチャード・マクネマーは言った。これが始まりだった。その後、彼ら宣教師たちは信者の家で毎夜集会を開き、私たちは毎回参加した。彼らは説教をし、奇妙な儀式を行った。手足を震わせ、前後に踊った。「うたい踊ることのはたらきを喜びなさい」マザー・アンは信者に言ったという。

 リチャード・マクネマーは言った。「なぜ舌を、なぜ身体の中で最も気ままなその部分を、崇拝のための唯一の手段としなくてはいけないのでしょうか?主は手や足もお創りになられたではないですか。そして、これらの機能ないし、人間のすべての力と機能は、奉仕のために主が授けられたものなのです。それゆえ奉仕のために、もしくは罪を克服するために使われるべきなのです。主に捧げる儀式の中で、それらは役立たずであるべきでしょうか? 主は、人間の持つすべての才能を、信仰の上で向上させることをお望みです」

 聖典を引用して続けた。「その時、(8)アロンの姉である女預言者ミリアムが小太鼓を手に取ると、他の女たちも小太鼓を手に持ち、踊りながら彼女の後に続いた。アロンの姉、女預言者ミリアムはタンバリンを手に取り、女たちも皆タンバリンを取って、踊りながら、そのあとに従って出てきた。(9)彼らは喜びうたいながらシオンの丘に来て主の恵みに向かって流れをなして来る。そのとき、おとめは喜び祝って踊り若者も老人も共に踊る。わたしは彼らの嘆きを喜びに変え彼らを慰め、悲しみに代えて喜び祝わせる

 そして彼らは素敵だけれど、なじみのない歌をうたった。私がずっと大好きだったのは、(10)ファーザー・ジェームスの歌だ。

 “「向こう側の谷、素敵なユニオンつくられた
立ち上がって、たくさん飲もう
冬は去って、春が来た
カメが我らが土地にもぐり込む
向こう側の谷、素敵なユニオンつくられた
立ち上がって、たくさん飲もう」”

 そして彼らは、自分たちの礼拝運動(exercises)のことを、聖書の言葉を多く引用しながら説明した。「(11)まことに、万軍の主はこう言われる。わたしは、間もなくもう一度天と地を、海と陸地を揺り動かす。諸国の民をことごとく揺り動かし諸国のすべての民の財宝をもたらしこの神殿を栄光で満たす、と万軍の主は言われる」
「悪と過ちを振り払うのだ」リチャード・マクネマーは言った。「すべての罪と間違った行いを振り払うのだ」そう言って、彼は手を下向きに振り払う動作をした。罪が体から振り払われたように見えただろう。

 ブラザー・ランキンは、そう簡単には納得しなかった。踊り、うたい、震えることは奇妙なことではなかった。私たちも、集会での聖霊の出現には慣れていた。
ブラザー・ランキンは、彼らが何を信じているのか知りたがったのだ。「聖書を信じますか?」ブラザー・ランキンは尋ねた。

 リチャード・マクネマーは答えた。「聖書を信じてはいます。でもそれが神の最後の啓示だとは信じていません。神は決して文字によってのみご意志を明らかにするわけではありません。主は人々や場所に自らを顕現させます。マザー・アンの預言はその証拠なのです」
「原罪を信じますか?」
「いいえ。神は慈悲深く公正です。アダムの罪について全人類を非難するようなことはしません。そして、人間の完全性を私たちは信じています。
人間は地上における神の道具なのです」
「(12)三位一体説を信じますか?」
「三つの面を持つ男性の神が、この宇宙に存在するなどと信じることができるのですか? 自然界が男性と女性が正しい秩序だと証明しているのに? 神の魂は男女両方に平等に与えられ、そして主の中には父と母両方の要素が内在すると私たちは信じています」。
「(13)母マリアに原罪がなかったと信じますか?」
「いいえ。キリストが神だとしたら、なぜ人間のために犠牲を払い、死ねたのでしょう? 神の魂はキリストに宿り、そして再びマザー・アンに宿った、しかしどちらも神の資質を持ち合わせてはいませんでした」
「復活を信じますか?」
「魂の復活を。身体の復活はありません。魂は死によって身体から離れます。身体はただの型に過ぎません。魂は解放され、永遠の命を持ち、新たな真実と光を求め進むのです。
死は身体のもので、それこそが魂の旅の始まりなのです」
「あなたたちの神学の基本は何ですか?」
「四つの原則を説きます。罪の告白、禁欲、社会からの断絶、そして財産の共有です」

 それらは私たちには理解しがたいことだった。罪の告白は理解できた。それは私たちにとっても普通のことだった。自分たちでも実践していたのだ。ブラザー・ランキンは尋ねた。「なぜ、信徒は禁欲を求められるのですか? 神はすべての創造物に実り多く、生産するように命じられたではないですか」

 リチャード・マクネマーが答えた。「創造主によって繁殖期が定められ、自然の法としてそれは守られていました。すべての被造物の中で、人間だけがこの法を無視するのです。
すべての動物の中で、唯一人間だけが色欲の罪を犯し、その快感を覚えるのです」
「では結婚を非難するのですか?」
「世界中の人々に、というわけではありません。しかし神の人々においては認められません」
「結婚していたことがありますか?」
「ええ。そして身体の完全性を得るために妻から離れました。己を否定し、受難に耐えることができる者のみが、生命の樹の果実を食べ、永遠に生きることが許されるのです。エデンの園で人は神に背きました」マクネマーは続けた。「そして、性の罪こそがすべての悪へとつながる罪なのです。ビリーバーズのあいだで、その罪は根絶されます」

 その話を聞いていた私たちは、家族ごと、夫と妻と子どもたちで寄り集まり、茫然としていた。私の心をわしづかみにする恐ろしい手のことを、よく覚えている。リチャードが椅子から身を乗り出し、顎に手をあてて、その言葉に引き込まれていく様を私は見たのだ。
「我慢できなくなってしまったことがないのですか?」誰かが尋ねた。
「初めは私もそうでした。私はただの男性でした。肉欲を乗り越えるのは厳しいものです。
でもいまや誘惑を克服したと断言できます」

 別の人が尋ねた。「世界中の人がみな、この信念のもとに集ったらどうなるのですか? 人類は死に絶えるのでは?」

 リチャード・マクネマーは笑った。「そんなに悪いことでしょうか? 世界は素晴らしい魂たちの冒険へと解放されるのです」
「マザー・アンは結婚していたのですか?」リチャードが尋ねた。
「していました。そしてマザー・アンは四人の子どもを産み、全員が小さな時に死にました。
その死が原因となり、たとえ結婚生活を送っていたとしても、男女間の肉欲を罪であると確信したのです。マザー・アンは夫を捨て、禁欲を貫きました」

 私たちはひどく混乱していた。それでもリチャード・マクネマーは奇妙な福音を伝え続けた。パルミラと私は話し合った。
「あなたはどう思う?」パルミラは尋ねた。
「わからない」私は打ち明けた。リチャードがリバイバル運動の影響下におちた、あの時のように。
「なんだか怪しい気がするわ」

 パルミラは言った。「夫や妻を捨てるって考え、あんなのうまくいかないわよ、ベッキー」
「何人かの心には響いているみたいだけれど」
「何人かだけよ。それも長くは続かないわよ。欲が強すぎて我慢できない人ばかりだもの」

 しかし、リチャードは我慢できるだろう。リチャードは正しいと思ったことは何でもするのだ。そしてその静かに聞いたことを考えている様子、ブラザー・ランキンと話している様子から、強く心が動かされているのが、私にはわかった。そして、リチャード・マクネマーが色欲の罪について語ったその夜から、リチャードが私に触れることがなくなった。

 私は恐怖でいっぱいだった。二人のあいだにあったものが色欲だとは、私にはとても思えなかった。それは自然で、正しく、喜びに満ちていた。リチャードと離れることなど嫌だった。あの日々はずっと不安が続いた。私の唯一の希望はブラザー・ランキンにあった。
ブラザー・ランキンが信じないものを、リチャードが信じることはないとわかっていた。

 集会は続き、私たちは通い続けた。完全性を得るために、そして世界に手本を見せるために、社会からの断絶が必要であると教えられた。なぜ、財産共有が大切なのか教えられた。
リチャード・マクネマーは言った。「キリストの法に基づいた財産と利益の共有、そして団結がなければ、全員が平等な心と身体を所有する完全な教会は存在しえないと信じています」マクネマーは、共同体が何年も前に作成した協定から、私たちに読み聞かせた。

 リチャードが尋ねた。「それはビリーバーズに参加する全員が、自身の財産を手放さなければいけないということですか?」

 リチャード・マクネマーは読んでいた紙を畳んだ。「いえ。もし望むなら、自分の財産を持つ権利はあります。教会にすべてを譲渡する必要はありません。ほとんどの人は譲渡することを選びます。自身を捧げ、正会員になることを。でも義務はありません。ただ、収入や作物といった収益は共有財産に捧げなければいけないし、教会のための労働は無償で行わなければなりません」
「それで、どう暮らしていくのですか?」
「みな平等に。共有財産から必要なものはそれぞれ与えられます。他の人より多く得る人はいません。病気の人や高齢の人は例外です。誰も貧困に陥らず、みな働かなければなりません」そして、リチャード・マクネマーは、私たちにとってもこれからなじみ深いものとなる、マザー・アンの言葉を引用しだした。「手は仕事へ、心は神へと捧げなさい」

 最初の改宗者は(14)ジョン・マコムだった。マシュー・ヒューストンに信仰告白をしたと記憶している。家で、リチャードと改宗者について話し合った。「他の人も続くと思う?」私はリチャードに尋ねた。

 リチャードは悩んでいるようだった。「わからない」

 リチャードの本心を聞かなければと思い、私は続けて尋ねた。
「もしブラザー・ランキンが行けと言ったら、あなたは?」リチャードは頭を抱えた。
「わからない、わからない」
「リチャード」私は率直に言い出した。「あの人たちが信じていること、あれは自然じゃないわ。人の生きる道じゃない。自分のためじゃなくて、みんなのために働くなんて。夫婦が別々に住むなんて。私たちが正しいと思ってることとまったく反対じゃない」

 リチャードは手をおろして私を見た。
「正しくて良いことなんてわかるものか? もし彼らが正しいとしたら、マザー・アンの道がたった一つの正しい道なんだよ。僕たちには子どもがいない。きっとそれが間違いだという徴なんだよ。僕たちが関係を……」

 私は熱くなり、怒りを感じ始めた。「私の夫として生きるのを恥じてるの?」

 リチャードは身じろぎした。「いや、恥じてないさ。自分の過ちを知らなければ、自分の恥を知ることなどできないだろう。しかし、真実を知ったあとなら……」
「だからここ二週間、触れてもこなかったわけ?」

 リチャードは目を合わせようとしなかった。「考えていたんだよ」
「私の気持ちはどうなるの?」

 リチャードはやっと私を見た。「君を傷つけたくなんかない……。でも信念に背くことなんてできない」

 私は、カッとした。私がどうあがこうが、結末はたった一つに思えた。それはリチャードの信念によっている。
「でも社会から断絶するっていうのは? 別居するのは? どうするつもりなの? 断絶できるような場所なんてないじゃない!」
「もし十分な人数が改宗すれば、彼らはまた宣教に出るらしい。そうしたら普段通りに暮らすんだ。収穫と仕事を共有するだけだよ。(15)配属(gathered in order)されるまでは、家族はそのまま別々に暮らしていくんだ」
「どういう意味?」
「そうだな、いずれみんなが一緒に、俗世から離れて生活するための場所が建てられる。それを配属する、と呼ぶんだ。」
「ずいぶん詳しくなったのね」私は苦々しく言った。
「そうだよ。そのつもりだったから。知られることは全部知っておきたかった」。
「行くつもりなのね」
「ベッキー……。わからないと言っただろ」
「私がついていかなかったらどうするの。どっちにしろ私から離れられるってわけ?」リチャードの言っていることが気に入らず、ひどいことを言わずにはいられなかった。

 リチャードの顔は赤くなった。「マクネマーさんは、同じ家に住んでいる男女が完全に離れることなんて、まったく期待されていないと言っていたよ。少しずつ練習して慣れていかないといけないって」

 私は、最愛の人の顔を見つめた。リチャードは当時、二十六歳だった。赤く、血色の良い頬の色は少し薄くなり、日光や風、雨に茶色く焼け、しわが目の角に寄っていた。しかし、たくさんのしわができるのはもっと歳をとってからのことだろう。リチャードの肌は厚く、他の男性のようなたるみやしわはできにくかった。

 ギャスパー・リバーでの幸せな日々は、その顔に表れていた。以前、リチャードのことをまじめだと言ったことがあるが、今その顔に現れているのはまじめさではなく、静かさと落ち着きだった。彼は義務感や責任感が強すぎて、ジョニーみたいに快活な男性ではなかったけれど、でも彼は気むずかしい人ではなかったし、ブラザー・ランキンとの日々は彼の顔を明るくし、変わりなく力強いものの、今までよりは表情豊かになった。

 いつも触れていたからもう触れなくても手の中に思い出すその形の感覚は、私にとってとても身近なことだったのだと考えながら、私は彼の顔をじっくり見た。

 私はその見慣れた顔をじっくりと見つめた。その形は、もう何度も触れて、手のひらに感触を思い出すのに触る必要すらなかった。私は、リチャードの広く力強い肩を見つめた。どんなきつい労働にも負けることなく、今でもまっすぐなその肩。私の目は、オークのようにがっちりとし、急な情熱で私の腰に手を回し、手荒くきつく抱きしめてくるその腕へ移った。そして、がっしりと大きく、よく働き、どんな動物にも私にも優しい、痛みや愛を伝えてくれるその手を見やった。あの人たちは、私からこの人を引き離そうというのだろうか?

 その瞬間、私はシェーカーを憎み、あの三人がギャスパー・リバーに来なければよかったのにと願った。私たちはうまくやっていた。十分幸せで、平和に暮らしていた。そこに突然彼らはやってきて、何もかも無茶苦茶にしてしまったのだ。私の憎しみは燃え、怒りが湧き上がってきた。私からリチャードを奪ったりさせるものか。
「もう十分練習はしたでしょう」私は突然言って、リチャードの首に腕を回し、顔を引き寄せた。
「二週間はとても、とても長かったわ、リチャード」

 最初、リチャードはまっすぐに立ったまま、負けようとはしなかった。けれど、押しつけられた私のぬくもりが身体に流れ込むと、リチャードは腕をあげ私を強く抱きしめた。リチャードは飢えているかのように口づけしてきた。そして私を抱きかかえ、真っ昼間であるにもかかわらず、何も言わずに寝室へ入った。

 リチャードはこれを手放すことはできない、私は激しい喜びの中で思った。二人のあいだにある最高の……。リチャードがいくら頑固で意志が強くても……これを手放すことはできないだろう。

第7章訳註

(1) ボウリング・グリーン (Bowling Green)
ケンタッキー州の南東にあるウォーレン郡に位置する都市。1798年に設立され、数十年のうちに南部ケンタッキー州の商業と輸送の中心地として位置付けられた。

(2) ガリア (Gallia)
古代ローマ人がガリと呼ばれるケルト人の住む地域をガリアと名付けた。

(3) マシュー・ヒューストン(Matthew Houston)
マシュー・ヒューストン(Matthew Houston, 1769 – 1853)はケンタッキー州ペイント・リックで長老派教会の牧師であったが、ケンタッキーで勃発した大覚醒をきっかけにシェーカー教へと改宗し、彼の長老派の信者たちもシェーカー教へと導いた。

(4) ユニオン・ビレッジ(Union Village)
オハイオにあったシェーカー・ビレッジの一つ。西シェーカーの中で最も古く、主要なコミュニティとして栄えた。初期の時点で、すでに人口がニューレバノンのビレッジを上回っており、11もの家族が生活していたが、そのどれもが短命だった。

(5) 聖霊の火に満たされた
聖霊をうけて力を授かること。聖霊降臨とは新約聖書「使徒言行録」2章にみられるエピソードで、使徒たちが聖霊によって洗礼(バプテスマ)を受ける事を約束し、彼らは聖霊の火に満たされると他国の言葉で話しはじめたと記されている。ここではマザー・アンが信仰の再生を経験して力強く生き抜く描写としてとらえられる。

(6) ウォーターヴリート(Watervliet)
ウォーターヴリート(Watervliet)はニューヨーク州西部に位置する地域。1776年にシェーカー教徒たちが最初の居住地を開拓した。シェーカー教の活動の中心となったマウント・レバノンの居住地はこの9年後に設立された。現在でもミーティングハウスは保存されており、コンサートホールなどとして転用されている。シェーカー教の教祖であるアン・リーはここに埋葬されている。

ウォーターヴリートのコミュニティは、「Church」「North」「South」「West」の4つのファミリーから構成され、最盛期には350人の居住者と10㎢の土地を所有した。19世紀初頭に入信者間での親権トラブルが発生し、既婚者は夫婦両人が入信に同意しなければ入信は許可されないというシェーカーの決まりを定めるに至った。建築は、基本的には3階分の居住フロアと屋根裏という構成になっており、現在ではミーティングハウスを含め、22棟が保存されている。

(7) ニューレバノン(New Lebanon)
ニューレバノン(New Lebanon)はニューヨーク州南部に位置する地域。1787年にシェーカーのコミュニティが設立され、マウント・レバノン(Mount Lebanon Shaker Society)やオールド・レバノン(Old Lebanon Shaker Society)などとも呼ばれ、シェーカー教の中心となった。人口は全盛期の1842年で615人。

(8) アロンの姉である女預言者ミリアムが小太鼓を手に取ると、他の女たちも小太鼓を手に持ち、踊りながら彼女の後に続いた。
出典: 日本聖書協会『聖書 新共同訳』(日本聖書協会、1988)(旧)p.119 「出エジプト記」15:20

(9) 彼らは喜びうたいながらシオンの丘に来て主の恵みに向かって流れをなして来る。そのとき、おとめは喜び祝って踊り若者も老人も共に踊る。わたしは彼らの嘆きを喜びに変え彼らを慰め、悲しみに代えて喜び祝わせる。
出典: 日本聖書協会『聖書 新共同訳』(日本聖書協会、1988)(旧)p.1235 「エレミヤ書」31:12-13

(10) ファーザー・ジェームスの歌(Father James’ Song)
ジェームス・ウィタカー(James Whittaker, 1751-1787)による1787年に作られた賛美歌。言葉と音楽を伴った初めてのシェイカーソングであると信じられている。

アン・リーやウィタカーがシェーカー教布教の活動中に迫害を受け、ウィタカーが鞭打ちにされた際に賜ったとされる。
Austin Symphonic Band. March 31, 2019 concert at the McCallum Arts Center in Austin TX. ASB performing Simple Gifts: Four Shaker Songs for Concert Band by Frank Ticheli. Part One: “In Yonder Valley”

(11) まことに、万軍の主はこう言われる。わたしは、間もなくもう一度天と地を、海と陸地を揺り動かす。諸国の民をことごとく揺り動かし諸国のすべての民の財宝をもたらしこの神殿を栄光で満たす、と万軍の主は言われる。
出典: 日本聖書協会「ハガイ書」2:06-07『聖書 新共同訳』(日本聖書協会、1988)(旧)p.1477

(12) 三位一体説(The Trinity)
キリスト教の教え。一人の神が「父」「子(キリスト)」「聖霊」の三役を担っているという考え。シェーカー教の教義においては、神は「父」と「母」の二役を担うとされているため、小説の中でもマクネマーは、三位一体説など理解できないと述べている。

(13) 母マリアに原罪がなかったと信じますか?(Immaculate Conception)
カトリックの教義であり、誕生したはじめから聖母マリアは原罪の汚れを受けなかったという教え。カトリックにおいては無原罪の御宿りと呼ばれ、彼らの教えでは、人は生れながらに原罪を負っているとされるが、聖母マリアは生れながらに神が共におり、原罪とは反対の状態にあるとされた。母アンナの胎内に宿った時から既に原罪を免れていたとされる。シェーカー教はこれも信じていない。

(14) ジョン・マコム(John McComb)
ジョン・マコム(John McComb)はケンタッキー州ローガン郡にサウス・ユニオンが設立された初期の信者の一人。

(15)配属(Gathered in order)
シェーカー教への入信者が、序列に従いシェーカー・ヴィレッジの各ファミリーに分かれることを「gathered in order」と言い、本ゼミでは「配属」もしくは「集結」と訳した。小説の舞台となっているサウス・ユニオン・ヴィレッジは1808年に設立され、入信者は各ファミリーに配属され生活を始めた。

 

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